ダイビングライセンスの種類を徹底解説!Cカードの違いと特徴

はじめに
「海の中を自由に泳いでみたい」
そう思った時、最初にぶつかる壁が「ダイビングライセンス」という存在です。「Cカードって何?」「種類がいっぱいあって分からない」「費用はいくらかかるの?」といった疑問を持つ方は少なくありません。
実は、ダイビングライセンスは単なる許可証ではなく、海という非日常の世界で自分の命を守り、最大限に楽しむための「パスポート」であり「お守り」でもあります。
この記事では、ダイビング業界に精通した筆者の実体験や失敗談を交えながら、Cカードの基礎知識から指導団体の選び方、各ランクの詳細、そしてリアルな費用事情までを網羅的に解説します。この記事を読めば、あなたが踏み出すべき最初の一歩が明確になるはずです。
ダイビングライセンス(Cカード)の基本知識
これからダイビングを始めようとする方にとって、「なぜライセンスが必要なのか?」「そもそもCカードとは何なのか?」という疑問は最初のハードルです。ここでは、日本国内や世界で通用するこのカードの意味や、取得する本当の価値について解説します。
Cカードとは何か?
一般的に「ダイビングライセンス」と呼ばれていますが、正式名称は**Cカード(Certification Card)**と言います。
まず理解しておきたいのは、これが自動車の運転免許証のような「法的な許可証(ライセンス)」ではないという点です。Cカードは、「特定のカリキュラム(訓練)を完了し、安全に潜るための知識とスキルを習得した」ことを証明する認定証としての性格を持っています。
世界共通のパスポート
Cカードは、PADI、NAUI、SSIといった国際的に認知された教育機関によって発行されています。 日本国内では「Cカード協議会」という団体が主要な教育機関14社をとりまとめ、指導の品質や安全性を一定以上に保つための**「最低指導基準」**を設けています。
つまり、このカードは世界中の海で通用するパスポートのようなものです。 取得することで、以下のようなことが可能になります。
- 知識と技能の証明: 所定の範囲内(深度や環境)で安全にダイビングができることを証明します。
- 自律的な活動: エントリーレベルの認定を受けることで、インストラクターの監督なしに、バディ(潜水仲間)と協力して潜水活動を行うことが許可されます。
取得までのプロセス
Cカードを手に入れるためには、希望するショップやスクールで講習を受ける必要があります。 基本的には以下の3ステップで進みます。
- 学科講習: 器材の知識や物理・生理学を学びます。
- プール/限定水域講習: 安全な環境で基本スキルを練習します。
- 海洋実習: 実際に海で最低4回のトレーニングダイブを行います。
もちろん、ただ講習を受ければ良いわけではありません。ダイビングは身体に圧力がかかる遊びであるため、事前に**「メディカル・チェックシート」**で健康状態を確認することも非常に大切です。
ダイビングライセンスが必要な理由
「体験ダイビングでも潜れるのに、なぜわざわざライセンスが必要なの?」 そう思う方もいるかもしれません。しかし、ライセンス講習を受けることは、単にカードを手に入れる手続きではなく、**「海という特殊な環境で、自分の命を守る術(すべ)を身につける」**ために必須のプロセスです。
1. 「漠然とした恐怖」からの解放
ライセンスを持たない体験ダイビングでは、すべての安全管理をインストラクターに委ねることになります。これは楽な反面、「何かあったらどうしよう」という不安が常につきまといます。
筆者自身、ライセンス取得前と後で、海への感じ方が劇的に変わりました。
【筆者の体験談:恐怖の正体がわかると、海はもっと楽しい】
体験ダイビングの頃は、インストラクターさんを信じるしかなく、心のどこかに「何かあったらどうしよう」という漠然とした恐怖がありました。
しかし、Cカード取得後は世界が変わりました。「水中で何が起きると困るのか」「それを防ぐにはどうするか」「万が一おきたらどう対処するか」を論理的に理解できたからです。
「知識がないことによる漠然とした恐怖」が消え、自分で安全をコントロールできる「能動的な安心感」へと変わった瞬間でした。
仕組みを理解し、ダイビング器材を正しく扱えるようになると、海の中での「余裕」が全く違ってきます。
2. 究極の状況で身を守る「お守り」
Cカード講習で学ぶトラブル対処法は、日常的なダイビングの安全だけでなく、万が一の緊急事態において生死を分ける「お守り」になります。
例えば、初心者の方でも呼吸が荒くなることはありますが、講習で学ぶ「止まって呼吸を整える」という基本動作だけで、パニックを防ぐことができます。さらに、より深刻な状況でも講習の記憶がダイバーを救います。
【筆者の体験談:講習の記憶が命を救った】
過去に一度、深い場所(水深40m)での作業中にミスが重なり、空気が残りわずかになって急浮上せざるを得ない状況(緊急スイミングアセント)に陥ったことがあります。
その時、極限状態の私の頭に浮かんだのは、講習で習った基本ルールでした。「あー」と声を出し続けて肺の破裂を防ぐこと、決して水面への浮上速度(分速18m)を超えないこと。
これを無意識に守れたおかげで、減圧症などの障害を負うことなく無事に生還できました。「講習をしっかり受けていたおかげで今の自分がある」と痛感しています。
このように、ライセンス講習は**「専門家の監督なしに安全かつ自律的に活動を行うための最低限の能力」**を身体に染み込ませるために存在します。
3. 新しい世界への挑戦権
もちろん、安全面だけでなく「楽しさ」の幅も大きく広がります。 ライセンスを取得すれば、水深18mまで潜れるようになり(OWDの場合)、水中写真や洞窟探検、沈没船ダイビングなど、新しいスタイルへの挑戦が可能になります。
Cカードは、あなたが安全に対する意識とスキルを持つダイバーであることの証です。それがあるからこそ、初めて会うバディやガイドとも信頼関係を築き、最高のダイブを楽しむことができるのです。

基礎知識を押さえたところで、次は実際に取得する際に迷いがちな「団体の種類」や「ランク」の全体像について見ていきましょう。
ダイビングライセンスの種類
ダイビングを始める際、最初に直面するのが「どの団体のライセンスを取ればいいのか」そして「どのランクまで取ればいいのか」という疑問です。
実は、一般に「ダイビングライセンス」と呼ばれているものは、公的な免許(License)ではなく、指導団体が発行する「認定証(Cカード)」を指します。ここでは、世界中で通用するライセンスの種類について、指導団体とランクという2つの軸で解説します。
指導団体による分類
世界には数多くのダイビング指導団体が存在しますが、基本的には**「主要な団体を選べば間違いはない」**と言えます。
なぜなら、主要な指導団体はWRSTC(世界レクリエーショナルスクーバダイビング評議会)という国際組織が定めた「最低訓練基準」に準拠しており、どの団体でも一定の安全基準とスキルが保証されているからです。
世界的に有名な主要指導団体
代表的な指導団体として、以下の名前をよく目にするでしょう。
- PADI (Professional Association of Diving Instructors): 1966年創設。世界最大規模のシェアを誇ります。
- NAUI (National Association of Underwater Instructors): 1960年創設の老舗団体です。
- SSI (Scuba Schools International): デジタル教材などに力を入れている団体です。
- CMAS (Confédération Mondiale des Activités Subaquatiques): 世界水中連盟。フランスに本部を置きます。
- BSAC / SNSI など
これらの団体が発行するCカード(認定証)を持っていれば、世界中の海でダイビングサービスを受けることが可能です。
【プロの結論】団体選びで迷ったら「シェアNo.1」を選ぶ
これから始める方へのアドバイスとして、「団体選びで悩みすぎる必要はありません」。
もし特にこだわりがないのであれば、世界シェアNo.1のPADIを選んでおくのが最も無難で確実な選択肢です。
実際の現場では:
私自身も「世界中で使える場所が多いから」という理由でPADIを選びました。実際にインストラクターとして活動していた際、NAUI出身の同僚とも働きましたが、指導内容やスキルに実務上の大きな差はほとんどありませんでした。
重要なのは「どの団体か」よりも、**「そのショップの雰囲気やメンテナンス体制がしっかりしているか」**です。団体名というブランドよりも、通いやすさや信頼できるスタッフがいるかどうかを重視してショップを選びましょう。
ライセンスのランク別分類
指導団体が決まったら、次は「ランク(レベル)」の理解です。レジャーダイバーのランクは階段状になっており、取得することで潜れる深さや活動範囲が広がります。
主なランクと活動範囲の違いは以下の通りです。
| ランク名 (PADI例) | 一般的な名称 | 最大深度 | 活動の特徴 |
|---|---|---|---|
| Open Water (OW) | 初級 | 18m | 昼間の穏やかな水域で、バディと潜れる |
| Advanced Open Water (AOW) | 中級 | 30m | ディープ、ナビゲーションなど遊びの幅が広がる |
| Rescue Diver (RED) | 救助 | - | トラブル対処、救助スキルを習得 |
| Master Scuba Diver (MSD) | 最高峰 | - | レジャーダイバーとしてのアマチュア最高ランク |
1. オープン・ウォーター(OW):まずはここから
ダイバーとしての入り口です。学科講習、プール講習、海洋実習を経て、器材の使いこなしやトラブルへの対処など「安全に潜るための基本スキル」を習得します。
- どんな講習?: 私の経験では、OWはとにかく**「安全に潜るスキルを必死に覚える教習所」**のような場所でした。マスクに水が入った時の対処や浮力調整など、自分の身を守ることで精一杯だったのを覚えています。
2. アドバンスド・オープン・ウォーター(AOW):本当の面白さはここから
OW取得後すぐに目指すべきランクです。深度制限が18mから30mに解除され、沈船ダイビングや洞窟ポイントなど、行ける場所が一気に増えます。
- OWとの決定的な違い: OWが「教習所」なら、AOWは**「公道でのドライブ」**です。 講習ではコンパスを使って元の場所に戻る「ナビゲーション」などを学びますが、インストラクターの後ろをついていくだけでなく、「自分で海を泳げた!」という自立の感動があります。ダイビングを趣味として楽しみたいなら、このAOWまで一気に取得することを強くおすすめします。
3. ディープダイビング・スペシャリティ:レジャーダイビングの限界へ
AOW取得後、さらに深い世界を探求したい方向けのコースが「ディープダイビング・スペシャリティ」です。このスペシャリティを取得することで、レジャーダイビングの最大深度である水深40mまで潜ることが可能になります。
なぜ40mまで潜るのか?
深度30mを超えると、普段は見ることのできない特別な世界が広がります。
- 沈船ダイビング: 歴史的な沈没船の全貌を見ることができる
- 深場の生物: 深い場所にしか生息しない魚や生物との出会い
- 地形の迫力: ドロップオフ(断崖絶壁)の底まで潜る圧巻の体験
講習で学ぶこと
ディープダイビングには特有のリスクがあるため、以下の内容を実践的に学びます。
- 深度による身体への影響(窒素酔い、減圧症のリスク管理)
- 深場でのエア消費量の変化と潜水計画
- 緊急時の浮上手順と安全停止の重要性
AOWで30mの世界を楽しんだ後、「もっと深く、もっと特別な景色が見たい」と感じたら、このスペシャリティが次のステップとなります。ただし、深度が増すほどリスクも高まるため、慎重な判断と十分な経験を積んでからの受講をおすすめします。
4. レスキュー・ダイバー(RED):自信と絆が生まれる
自分自身の安全だけでなく、バディの疲れやトラブルに気づき、対処できる能力を養います。
- プロの体験談: 「レスキュー」と聞くとハードルが高そうですが、実際は達成感が凄まじいコースです。私は真冬の2月に受講したため非常に過酷でしたが、その分バディとの絆が深まり、上半身裸で記念撮影した写真は一生の思い出になっています。 トラブルに対処できる自信がつくと、精神的な余裕が生まれ、結果としてダイビングがより楽しくなります。
前述の通り、団体選びで迷ったら最大手を選ぶのも一つの手ですが、それぞれの団体には独自の理念や特徴があります。ここからは、主要3団体の個性をさらに深掘りしてみましょう。
主要なダイビング指導団体の紹介
ダイビングを始める際、最初に直面するのが「どの指導団体(Cカード発行機関)を選べばいいの?」という疑問です。
世界には数多くの指導団体が存在しますが、それぞれに教育理念や強みが異なります。ここでは、日本国内でも特に認知度の高い主要3団体(PADI、NAUI、SSI)について、その特徴や違いを詳しく解説します。
PADI(パディ)の特徴
世界中のダイバーの約6割以上が所属していると言われるのが、名実ともに世界最大の指導団体「PADI(Professional Association of Diving Instructors)」です。「世界がダイビングを学ぶ方法」をスローガンに掲げ、年間100万件以上の認定を発行しています。
- 圧倒的な認知度と「使える」安心感
PADIの最大の強みは、その圧倒的なシェアとグローバルネットワークです。186の国と地域に展開しており、旅先や離島のダイビングショップでも「このカードで潜れるかな?」と心配する必要が一切ありません。 実際に海外や離島を訪れた際も、団体を確認する手間がなく、どこへ行ってもスムーズに受け入れられる「ストレスフリーさ」こそが、シェアNo.1の実利的なメリットと言えます。
- 誰が教えても質が保たれる教育システム
PADIのカリキュラムは、ダイビング教育において「教育的に最も確かなシステム」として設計されています。 特筆すべきは、インストラクターの指導法が徹底してシステム化されている点です。例えば、プロコースでは「褒めて、指摘して、また褒める(サンドイッチ法)」という指導テクニックが叩き込まれます。これにより、担当インストラクターによる指導のバラつきが少なく、誰から教わっても楽しく、かつ確実にスキルを習得できる環境が整っています。
- オンライン学習と環境への配慮
現代のライフスタイルに合わせ、eラーニングなどのオンライン学習リソースも充実しており、忙しい方でも自分のペースで知識を深めることが可能です。 また、海洋保護活動にも積極的で、「PADI AWARE Foundation」を通じて海洋ゴミの除去や保護区の拡大に取り組むなど、ダイバーとして海を守る意識(トーチベアラー)の育成にも力を入れています。
幅広いプログラムやスペシャルティコースが用意されており、初心者からプロを目指す方まで、明確な目的を持って楽しめるのがPADIの魅力です。
NAUI(ナウイ)の特徴
NAUI(National Association of Underwater Instructors)は、1960年に設立された歴史ある指導団体です。「教育を通じたダイブの安全(Dive Safety Through Education)」を信条とし、世界で初めてダイビング指導員組織として誕生しました。
- 非営利団体としての信頼と「教育」へのこだわり
PADIが営利組織であるのに対し、NAUIは「非営利団体」として運営されています。利益の追求よりも、教育の質と安全基準の維持を最優先する姿勢は、多くのダイバーから厚い信頼を得ています。 その教育水準の高さは、NASA(米国航空宇宙局)が宇宙飛行士の水中訓練において協力関係を結んでいる唯一の国際的ダイビング教育機関であることからも証明されています。
- インストラクターの裁量による「メンターシップ」
NAUIの大きな特徴は、インストラクターに与えられた裁量の大きさです。最低限の基準を守ることは当然ですが、NAUIではそこからさらに「受講生の能力やニーズに合わせてコース内容を柔軟に調整すること」が推奨されています。 マニュアル通りの画一的な指導ではなく、インストラクターが個人的なメンター(助言者)として、一人ひとりのスキルレベルに合わせてじっくりと向き合う「メンターシップシステム」が根付いています。
- 環境保護への取り組み
NAUIもまた、「NAUI Green Diver Initiative」などの活動を通じて、海洋環境の保護や持続可能な開発に力を入れています。 沖縄などのリゾート地でも、ボートダイビングやナビゲーションなど、実践的なスキルを楽しく、かつ安全第一で学びたい方には、NAUIの充実したカリキュラムが適しているでしょう。
SSI(エスエスアイ)の特徴
SSI(Scuba Schools International)は、PADIやNAUIと並ぶ主要なダイビング認定機関の一つです。国内外で広く認知されており、特にショップ(ダイブセンター)を拠点とした地域密着型の教育スタイルに定評があります。
- 継続教育を促す「ピラミッド・システム」
SSIの訓練構造は、「ピラミッド・システム」および「インストラクター・パスウェイ」と呼ばれる階層的な仕組みを採用しています。 初心者が参加しやすい「トライ・スキューバ(体験ダイビング)」から始まり、経験を積むごとにステップアップしていく道筋が明確です。これにより、ダイバーは自分のペースで無理なく技術を向上させることができます。
- フレキシブルな学習と地域密着型サポート
SSIは、デジタル教材の活用に積極的であり、学科講習の一部を自宅で済ませることができるなど、自己学習を促進する仕組みが整っています。 また、SSIは加盟店(ダイブセンター)の品質管理を重視しており、講習後のアフターサポートやツアーの提案など、ダイバーが生涯を通じて海と関わり続けられるような環境づくりに力を入れています。
他の団体と比較・検討されることも多いですが、BSAC(ビーエスエーシー)などと同様に、安全管理と技術向上をバランスよく目指せる団体として、多くのダイバーにおすすめできる選択肢の一つです。

団体の特徴を理解したところで、次は実際に各ランクで「何を学び、何ができるようになるのか」を詳しく見ていきましょう。ここでは、単なる深さの違いだけでなく、ダイバーとしての体験の質の変化に焦点を当てて解説します。
ダイビングライセンスのランクとその内容
ダイビングのライセンス(Cカード)には、習熟度や目的に応じて明確なランク分けがなされています。ここでは、最初の一歩となる「初級」から、遊びの幅を広げる「中級」、そしてプロフェッショナルを目指す「上級」まで、それぞれの特徴と講習内容を解説します。
初級ライセンス:オープン・ウォーター・ダイバー
ダイビングを始めるための最初のステップ、それが「オープン・ウォーター・ダイバー(OWD)」コースです。この資格を取得することで、ダイバーは**「自立したダイバー(Autonomous Diver)」**として認定されます。
インストラクターの引率なしに、バディ(相棒)と協力して水深18メートルまでの範囲で自由にダイビングを楽しむことが可能になります。
主な講習内容とプロセス
講習は大きく分けて以下の3つのフェーズで構成されています。
- 学科講習: 器材の物理的な仕組み、減圧理論、水中でのハンドシグナルなどを学びます。
- 限定水域(プール講習): 足のつく浅瀬やプールで、マスククリアや浮力調整などの基本スキルを練習します。
- 海洋実習: 実際に海で最低4回のダイビングを行い、学んだスキルを実践します。
初心者が乗り越えるべき壁
多くの人が不安を感じるのが、水中でマスクの中に水を入れたり外したりする「マスク脱着」のスキルです。 実際にライセンスを取得した方の体験談でも、「お昼休憩中に『これからやるんだ』とドキドキしてしまうほどの緊張感があった」という声があります。しかし、段階を踏んで練習するため、最終的には必ずできるようになります。この緊張感を乗り越えた先に、水中世界へのパスポートが待っています。
取得後の変化:体験ダイビングとの違い
体験ダイビングではインストラクターに掴まり、着底して魚を眺める「静止画」のような体験が主ですが、OWD取得後は**「動画」**のように世界が変わります。 自分の器材を操作し、水中を広く泳ぎ回ることで、「自分のことは自分でやる」という自立心と圧倒的な自由が得られるのが最大の魅力です。
中級ライセンス:アドバンスド・オープン・ウォーター・ダイバー
オープン・ウォーターを取得し、「もっと深く潜りたい」「色々な遊び方を知りたい」と思ったら、次はアドバンスド・オープン・ウォーター・ダイバー(AOWD)へステップアップしましょう。
このコースの目的は、単にランクを上げることではなく、基本的なレベルを超えてスキルを洗練させ、異なる環境下での経験を蓄積することにあります。
できること・変わること
- 深度の拡張: 最大深度が18メートルから30メートルへ拡張されます。これにより、沈船ダイビングやドロップオフ(断崖)など、よりダイナミックなポイントへアクセス可能になります。
- 専門スキルの習得: 「ディープダイビング」と「水中ナビゲーション(コンパス移動など)」の必須科目に加え、自分の好みに合わせた3つのスペシャルティ(合計5ダイブ)を経験します。
恐怖が感動に変わる瞬間
このコースでは、夜の海に潜る「ナイトダイビング」を選択することも可能です。「真っ暗な海=怖い」というイメージを持つ方も多いですが、実際の体験者の声では、それが感動へと変わる瞬間が語られています。
「やる前は怖かったが、実際に潜ると夜光虫がキラキラと光る幻想的な光景に感動した」
楽しみながらスキルアップする好循環
「中級」という響きに不安を感じる必要はありません。むしろ、講習を通じて中性浮力(水中で浮き沈みしない状態)のコツを掴むことで、呼吸が安定し、エア持ちが良くなります。 **「スキルが上がる→水中で余裕が生まれる→景色を見る余裕ができて楽しくなる」**という好循環に入るためにこそ、このライセンスは存在します。
上級ライセンス:ダイブマスターとインストラクター
ここからは、趣味の領域を超えて**「プロフェッショナル」**として活動するためのライセンスです。ダイビング業界でのキャリアを築きたい方や、究極の安全管理能力を身につけたい方が目指す領域です。
プロフェッショナルの役割分担
- ダイブマスター (DM): プロの最初のレベルです。認定ダイバーをガイドしたり、ダイビング活動全体を監督・管理したりする「現場の指揮官」のような役割を担います。
- インストラクター (OWSI): 新たなダイバーを教育・認定することができる「先生」です。学科講習から海洋実習までを行い、ダイビングの魅力を伝える伝道師となります。
自家用機から旅客機の機長へ
このレベルの違いを飛行機に例えると分かりやすいでしょう。 初級ライセンス(OWD)が自分とバディだけで飛ぶ「自家用操縦士」だとすれば、プロフェッショナルは乗客(ゲスト)の命を預かる**「航空会社の機長」です。 単に潜るだけでなく、トラブルの予兆を察知し、ゲストの残圧や体調に全方位で気を配る高度なリスク管理能力とリーダーシップ**が求められます。
「守る側」を知ることで得られる究極の贅沢
プロ資格を取得することは、必ずしも仕事にするためだけではありません。 「楽しむ側」から「管理する側」の大変さを痛感するトレーニングを経ることで、自分が再びゲストとして潜った際に、**「自分のことだけ考えていればいい状況がいかに楽で贅沢か」**を骨の髄まで理解できるようになります。 最高レベルのスキルと安全意識を持った「最強のアマチュアダイバー」として、海を遊び尽くすための一つの到達点とも言えるでしょう。
ここまでの解説で、自分が目指すべきライセンスの姿が見えてきたのではないでしょうか。最後に、実際にスタートを切るために必要な「費用」と「スケジュール」について、現実的な相場と注意点をお伝えします。
ダイビングライセンス取得の流れと費用
「ダイビングを始めたい!」と思ったとき、最初に気になるのが「いくらかかるのか?」と「どのくらい大変なのか?」という点でしょう。 ここでは、初級ライセンス(OWD)を取得する際のリアルな費用相場と、合格までの具体的なステップを解説します。
ライセンス取得にかかる費用の相場
ライセンス取得にかかる費用は、スクールや地域によって大きく異なりますが、まず理解しておきたいのは**「何が含まれているか」**という内訳です。
費用の標準的な構成要素
一般的に、以下の項目がすべて含まれて「ライセンス取得費用」となります。
- 指導料: インストラクターによる講習費(学科・プール・海洋)
- 教材費: テキストやDVD、eラーニングの利用料
- Cカード申請料: 指導団体への登録・発行手数料
- 実習関連費: プールや海の施設利用料、タンクレンタル代、保険料
具体的な事例として、総額6万円から7万円前後が国内の標準的な相場となります。これには講習費・実習費・器材レンタル・申請料などが含まれており、最初に教材費を支払い、残金を講習初日に精算するといった支払い方法が一般的です。
【注意】「格安広告」の落とし穴
ここで特に注意していただきたいのが、極端に安い価格を打ち出している広告です。 例えば「ライセンス取得19,800円!」と大きく書かれていても、実際にはウェットスーツやマスクなどの必須器材レンタル代(約2万円など)が別料金になっているケースが少なくありません。
これは**「格安航空券(LCC)」に似ています。チケット代は安くても、荷物を預けたり座席指定をしたりすると結局高くなるのと同じで、ダイビングも「指導料」以外に多くのコストがかかる遊びです。 契約前に必ず、「講習期間中のすべての器材レンタル代が含まれているか」**を書面で確認しましょう。
筆者の体験談:想定外の器材購入という現実
私が利用したショップは明朗会計で、後出しの追加費用はありませんでした。講習費用については事前に理解していたのですが、想定外だったのは器材購入の話です。
最初は「レンタルで十分」と思っていたのですが、講習の流れでショップにディスプレイされている器材を実際に背負わせてもらったり装着させてもらったりする機会がありました。自分の体にフィットする器材を試すうちに、どうしてもテンションが上がってしまい、結果的に**「自分の器材(重器材フルセット)」**を購入することになりました。
講習費用だけでなく、こうした「現場での購買意欲」も現実としてあります。器材購入の可能性も視野に入れて、予算計画は余裕を持って立てることをお勧めします。
さらに詳しい費用の内訳や各ライセンスごとの相場を知りたい方へ
ダイビングライセンス取得費用の全貌と相場を徹底解説! にて、費用の具体例や「安い広告のカラクリ」、器材購入に関するリアルな体験談まで詳しくまとめています。あわせてご覧ください。
取得までの一般的な流れ
Cカード取得講習は、国際的な基準(RSTC/ISO)に基づいて標準化されており、一般的には3〜4日間の日程で行われます。 大きく分けて以下の3つのステップで進みます。
ステップ1:学科講習(理論学習)
まず、安全に潜るための物理学や生理学、器材の知識を学びます。現在はeラーニングが普及しており、自宅で自分のペースで学習を進められるようになっています。
- 筆者の本音:
「海の知識は楽しいですが、『減圧理論』などの物理的な話は正直眠くなります。ただ、これを知らないと命に関わるので、興味が湧かなくても義務感で必死に勉強しました」
どんなに眠くても、ここでの学習が水中のトラブル対処の基盤になります。
ステップ2:限定水域講習(プール講習)
足のつく浅瀬やプールで行う実技講習です。所要時間は4〜7時間程度が目安です。
- やること:
- マスクに水が入った時の対処(マスククリア)
- 浮力調整具(BCジャケット)の操作
- 水中のハンドシグナル
いきなり海に行くのではなく、ストレスの少ない環境で操作をマスターしてから次のステップへ進みます。
ステップ3:海洋実習(オープンウォーター)と認定
いよいよ実際の海での実習です。通常は2日間かけて行い、プールで学んだスキルを海で実践します。 初日は水深12m以内からスタートし、最終的にはOWDの限界である水深18mまでの範囲で行動できるよう練習します。
意外なハードル:「朝の早さ」
講習の内容以外で覚悟しておきたいのが、当日のスケジュールです。
「私は内陸(山梨)から伊豆へ通ったため、何より朝の早さが印象に残っています。片道2時間の移動があるため、普段の生活にはない早起きが必要でした」
都市型ショップを利用して海へ通う場合、「移動時間」も講習の一部と考え、前日はしっかり睡眠をとって体調を整えましょう。
すべての実習をクリアし、知識とスキルが認められれば、晴れてダイバーとして認定されます。申請から1〜2週間ほどでCカードがお手元に届きます。
まとめ
ダイビングライセンス(Cカード)は、単なるプラスチックのカードではありません。それは、「海」という圧倒的な大自然の中で、自分の身を守りながら楽しむための知識と技術を証明するものです。
団体やランクの種類は多岐にわたりますが、まずは世界シェアNo.1のPADIなどで「オープン・ウォーター・ダイバー」を取得すれば間違いありません。費用や時間の投資は必要ですが、それ以上に得られる「漠然とした恐怖からの解放」と「新しい世界への挑戦権」は、あなたの人生をより豊かにしてくれるはずです。
信頼できるショップを見つけて、ぜひ最初の一歩を踏み出してみてください。海の中には、まだ見ぬ感動があなたを待っています。
Last modified: 26 Nov 2025


