ダイビングライセンスの種類とランクを徹底解説
ダイビングライセンスの種類とランクを徹底解説
「海の中を自由に泳いでみたい」 「テレビで見たあの絶景を、自分の目で見たい」
そう思ってダイビングについて調べ始めると、最初にぶつかるのが「ライセンス」という壁ではないでしょうか。「Cカード」「指導団体」「ランク」……聞き慣れない言葉が多く、「難しそう」「自分にできるかな」と不安を感じてしまう方も少なくありません。
しかし、安心してください。正しい知識を持てば、そのハードルは思っていたものよりずっと低いものです。むしろ、ライセンス取得は、あなたの世界を劇的に広げる「パスポート」を手に入れるようなワクワクする体験です。
この記事では、ダイビングライセンスの基礎知識から、種類やランクの違い、そしてプロフェッショナルへの道まで、経験者のリアルな実体験を交えて徹底解説します。「泳ぎが苦手でも大丈夫?」「更新は必要なの?」といった素朴な疑問にもお答えします。
さあ、陸上の常識が通じない、青い世界への扉を一緒に開けましょう。

ダイビングライセンスの基本知識
ダイビングを始めようとする方が最初に知っておくべき、ライセンスの「本当の意味」について解説します。
ダイビングライセンスとは?
実は「免許」ではない?正しい呼び名は「Cカード」
一般的に「ダイビングライセンス」と呼ばれていますが、これは運転免許証のような国家資格(License)ではありません。正式名称は**「Cカード(Certification Card)」**と言い、民間の指導団体が発行する「認定証」のことを指します。
このカードは、特定のトレーニング基準を修了し、ダイビングに必要な知識と技能を持っていることを証明するものです。
- 世界中で使える: ISO(国際標準化機構)の規格(ISO 24801-2など)に準拠しているため、国内だけでなく海外の海でも通用します。
- 自律した活動: 認定を受けると、インストラクターの付き添いなしで、同等の資格を持つバディ(相棒)と一緒に自分たちでダイビング計画を立てて潜ることができるようになります(通常は深度18mまで)。
取得へのハードルは意外と低い
「特別な人のための趣味」「ハードルが高い世界」というイメージをお持ちではありませんか?
実は、海がない県(例えば山梨県など)に住んでいても、近くの湖やプールを利用して講習を行っているショップは意外と多く存在します。筆者自身も取得前は自分とは縁遠い世界だと思っていましたが、一歩踏み出してみると想像以上に身近なものでした。
「やりたい」と思った瞬間から、すでに道筋はできているのです。
講習の内容と期間
Cカードを取得するための講習は、主に以下の3つのステップで構成されています。
- 学科セッション: 安全に関する知識や器材の扱い方を学びます。
- プール/限定水域セッション: 穏やかな水域で基本スキルを練習します。
- 海洋実習: 実際に海で潜り、スキルを実践します(最低4回、合計80分以上の潜水が必要)。
SSIなどの基準では、推奨時間はトータルで16〜32時間程度とされており、数日間の講習で取得が可能です。
ライセンスは「パスポート」
Cカードは単なる遊びの許可証ではありません。筆者にとってCカードは、**「人生の選択肢を広げ、海外への扉を開くパスポート」**でした。
世界中の海を潜れるようになることはもちろん、インストラクターなどのプロレベルを目指せば、海外で働くという夢にも繋がります。趣味の枠を超えて、自分の世界を大きく広げてくれるツール、それがダイビングライセンスなのです。

Cカードの役割と重要性
お店からの「信頼の証」として機能する
Cカードの最も重要な役割は、「この人は安全に潜るスキルを持っている」という証明になることです。
初めて行くダイビングショップでも、Cカードを提示することで、あなたのスキルレベルが客観的に証明されます。これは、海上保安庁などの公的機関も関与する安全管理体制に基づいた「信頼」によって成り立っています。
筆者がステップアップのために別のショップを訪れた際、手取り足取りの指導ではなく「じゃあ、セッティングお願いします」とタンクを渡されたことがあります。それは「お客様」扱いではなく、自立した**「一人のダイバー」として認められ、信頼された瞬間**でした。自分でやらなくてはいけないという緊張感とともに、この誇らしさは、ライセンス取得の大きな醍醐味の一つです。
水中が「自由な遊び場」に変わる
Cカードを取得し、講習の枠を離れると、ダイビングの自由度は劇的に向上します。
- 重力からの解放: 魚を見るだけがダイビングではありません。無重力空間を利用してバク宙をしたり、「ドラゴンボールごっこ」のような遊びをしたりすることも可能です。
- 景色の変化: ただの「水中の景色」だった場所が、自分たちで自由に動き回れる「広大な遊び場」へと変わります。
これは、プロの監督なしでバディと共に潜水できる「自律したダイバー」の資格を持っているからこそ味わえる体験です。
命を守るための「安全装置」
もちろん、自由には責任が伴います。Cカードは、万が一のトラブルに備えるための「安全装置」としての側面も持っています。
- 医学的リスクの理解: 気管支喘息や自然気胸などの既往症がある場合、浮上時の圧力変化で肺が破裂するリスクがあるため、厳格な医学的コントロールが必要です。Cカード講習では、こうした命に関わるリスクについても学びます。
- サポートへのアクセス: Cカードを持つことで、DAN JAPAN(緊急医療援助事業)などの会員制サービスに加入でき、緊急ホットラインやレジャーダイビング保険の適用を受けられるようになります。
「取ったら終わり」ではない点に注意
注意したいのが、Cカード自体に有効期限はありませんが、**「スキルは風化する」**という点です。
業界の対応例として、10年以上のブランクがある場合は、経験本数を問わず再度オープンウォーターコースの受講を必須とする基準もあります。安全に楽しむためには、定期的に潜り、スキルを維持し続けることが大切です。

Cカードの基本を押さえたところで、次は実際にどのような「種類」や「ランク」があるのか、選び方のポイントを見ていきましょう。
ダイビングライセンスの種類
ダイビングライセンスを取得しようと調べ始めると、「PADI」「NAUI」といったアルファベットの団体名や、「オープンウォーター」「アドバンス」といったランク名がたくさん出てきて混乱してしまうかもしれません。
ここでは、自分に合ったライセンスを選ぶための「指導団体」と「ランク」という2つの軸について解説します。
指導団体による分類
多くの団体が存在する理由
ダイビングには、講習を提供し認定証を発行する「指導団体」が世界中に多数存在します。代表的な団体には以下のようなものがあります。
- PADI(パディ): 世界のダイバー人口の約7割を占める世界最大の教育機関。
- NAUI(ナウイ): 1960年設立。アメリカで最初にインストラクターコースを開催した老舗。
- BSAC(ビーエスエーシー): 英国王室とも縁が深い、「Safety First」を理念とする団体。
- SSI(エスエスアイ): デジタル教材などが充実している団体。
「どの団体がいいの?」と迷うかもしれませんが、主要な団体はWRSTC(世界レクリエーショナルスクーバトレーニング協議会)やISO(国際標準化機構)の基準に準拠しており、基本的な安全基準やスキルレベルに大きな優劣はありません。どの団体で取得しても、世界中の海でダイバーとして認められます。
迷ったら「シェアNo.1」を選ぶのも一つの手
そうはいっても、やはり迷ってしまうのが初心者というもの。筆者が選んだのは、圧倒的なシェアを持つ「PADI」でした。
理由はシンプルで、**「世界中どこへ行っても困らないから」**です。実際に海外で活動していても、お客様から「団体はどこですか?」と聞かれたことすら一度もありません。それは「PADIであれば間違いない」という事実が浸透している証拠であり、最大の安心材料でした。
もちろん他の団体も素晴らしいカリキュラムを持っていますが、特にこだわりがない場合は、シェアNo.1の団体を選んでおけば、将来的に国内外のどこのショップに行ってもスムーズに受け入れられるでしょう。

ライセンスのランク別分類
指導団体の次は「ランク」です。ダイビングライセンスは、取得者の知識やスキルに応じて活動できる範囲(深度など)が明確に区別されています。
ここでは、一般的なレクリエーショナルダイビングのステップアップの流れを紹介します。
- オープン・ウォーター・ダイバー(OW) ~まずはここから!自立したダイバーへの第一歩~
- ISOレベル: Level 2 (Autonomous Diver) ※「ISOレベル」とは、国際標準化機構(ISO)が定めた国際的な基準(ISO規格)を満たしている度合いや水準を指し、主に製品の品質、サービスの仕組みのことです。
- 最大深度: 通常18m
- できること: インストラクターの監督なしで、バディと自律的にダイビング計画を立てて潜ることができます。 筆者の体験では、OW講習は「勉強と実技」という緊張感と充実感があります。これを乗り越えることでダイバーとしての基礎が出来上がります。
- アドバンスド・オープン・ウォーター(AOW) ~遊びの幅が一気に広がる~
- 概要: 特定のテーマ(ディープ、ナビゲーションなど)を経験するコース。
- 最大深度: 30m(トレーニングにより最大40mまで)
- 筆者のおすすめポイント: OWが「勉強」なら、AOWは良い意味で**「遊び感覚で体験しながら学ぶ」**スタンスでした。肩の力が抜けて、純粋な楽しさにシフトする瞬間がここにあります。 深度制限が解除されることで、沈船ダイビングや洞窟など、冒険の世界が一気に広がります。個人的には、このランクまで続けて取得することをおすすめします。
-
レスキュー・ダイバー(RED) ~トラブルを未然に防ぐ危機管理能力~ 自分自身の安全だけでなく、バディのトラブルに対処する能力や、救助スキルを学びます。水中の安全意識が格段に高まるため、自分自身もよりリラックスして潜れるようになります。
-
マスター・スキューバ・ダイバー(MSD) ~アマチュア最高峰の“称号~ 概要: 1つの講習コースというより、これまで積み上げてきた経験と知識をまとめて評価される**到達点(ランク/表彰)に近い位置づけです。 目安の要件(例): 団体によって条件は異なりますが、一般的には AOW+レスキュー+複数のスペシャルティ(例:5つ前後)+一定本数の経験ダイブ(例:50本前後) が求められることが多いです(※PADIではこの形が代表的)。 できること: 新しい権限(深度や引率資格)が増えるというより、「幅広い環境で安全に遊べる総合力」**が身についている状態。ディープ、ナビ、ナイト、ドリフト、沈船など、シーンごとの“遊びのコツ”が増えます。 筆者のおすすめポイント: MSDは、肩書きのためというより 「自分のダイビングの引き出しを増やすため」に取ると満足度が高いです。苦手が減り、判断が早くなり、結果として楽しさが安定する。レスキューで安全意識を底上げして、スペシャルティで遊びの幅を増やしていく流れの“総仕上げ”として、気持ちいいランクです。
-
プロフェッショナル(ダイブマスター・インストラクター) ~「楽しむ側」から「楽しませる側」へ~ アマチュアの最高峰を超えると、プロレベルの世界が待っています。ガイドや講習のアシスタントができるようになります。 筆者がプロレベルを目指して感じたのは、視点が「自分の楽しみ」から「チーム」や「生徒の喜び」へと広がったことでした。自分が育てたダイバーが楽しそうにしている姿を見ることは、単に深く潜ること以上の、人生の喜びに深く関われる幸せを感じさせてくれます。

ランクごとの概要が見えたところで、次はそれぞれのランクで「具体的に何ができるようになるのか」「どんな体験が待っているのか」を深掘りしていきましょう。
ダイビングライセンスのランク
ここでは、前述したランクを「初級」「中級」「上級」の3段階に整理し直し、それぞれの習熟度に応じた楽しみ方や、筆者が実際に感じた変化について解説します。
なお、ランクの名称は指導団体によって異なりますが、ここでは歴史あるBSAC(British Sub-Aqua Club)の事例や、筆者の体験(PADI)を交えてご紹介します。
初級ライセンスの特徴
ダイバーとしての「デビュー戦」
初級ライセンスは、ダイビング未経験者が最初に取得を目指す「エントリーレベル」のコースです。PADIで言うと「オープン・ウォーター・ダイバー(OW)」、BSACでは「オーシャンダイバー」などがこれに該当します。
このランクの主な目的は、スクーバダイビングを楽しむための「必要最低限の知識」と「基本的な器材を安全に使える能力」を身につけることです。
- 活動範囲: トレーニングと同等の穏やかな海域で、同等レベル以上のバディと共に、水深18mまで潜ることができます。
- 講習内容: 学科講習、プール講習(限定水域)、そして実際に海で潜る海洋実習(4回以上)で構成されています。現在はeラーニングを利用して、自宅で学科を進められることも一般的です。
最初の壁「スキルへの不安」を乗り越える
初めての講習では、慣れない水中の環境に戸惑うこともあります。筆者が最も苦戦したのは「マスク脱着」でした。水への恐怖心もあり、最初はパニックになりかけましたが、講習期間中の夜に宿のお風呂場で、マスクに水を入れて出す練習をひたすら繰り返しました。
講習が終わった後も、安全停止中などに練習を繰り返すことで、「自分はできる」という自信が生まれ、水中が劇的に快適になりました。最初から完璧である必要はありません。遊びの中で少しずつ慣れていけば大丈夫です。
中級ライセンスの特徴
「18mの壁」を超えて世界を広げる
初級ライセンスを取得した後、さらなる楽しみを求めて目指すのが中級ライセンスです。PADIで言うと「アドバンスド・オープン・ウォーター・ダイバー(AOW)」、BSACでは「スポーツダイバー」などが該当し、活動範囲を水深30mまで拡大することができます。
中級ランクは、技術的な自立を目指す段階であり、以下のスキル習得が鍵となります。
- ディープダイビング: 深い水深特有のリスク(減圧症や空気消費など)と対処法を学びます。
- ナビゲーション: コンパスや地形を見て、水中で自分たちの位置や帰り道を把握する技術です。
「無重力」と「冒険」の快楽
筆者が「ダイビングの本当の面白さに気づけた」と感じたのは、この中級ランクの講習中でした。
- PPB(中性浮力): 水中でピタリと止まり、思い通りに浮遊できるようになった時、「ザ・無重力感」と心地よい脱力感を味わえました。
- ディープの世界: 18mの制限を超えて深く潜った時、行ける場所が一気に増え、「未知の世界へ踏み込む」という冒険のドキドキ感を楽しめました。
単なる資格の更新ではなく、**「身体の自由」と「世界の拡大」**を手に入れるステップ、それが中級ライセンスです。
上級ライセンスの特徴
リーダーシップと安全管理のプロフェッショナル
上級段階では、もしものトラブルを**「起こさない工夫」と、起きてしまったときの「助け方・対応」(レスキュー/リスク管理)を学びながら、落ち着いて判断できる“頼れるダイバー”**を目指します。
PADIでいう「レスキュー・ダイバー」は、困っている人を助けたり、事故を防ぐ考え方を身につけるコースです。受講するには、EFR(心肺蘇生や応急手当など)の救急トレーニングを、決められた期間内に受けている必要があります。
また、PADIの「マスター・スキューバ・ダイバー(MSD)」は、新しい講習を受ける“コース”というより、経験と学びを積み重ねた人に与えられる称号です。レスキュー取得に加えて、5つのスペシャルティ(次のセクションで解説)と、最低50本のログが条件になります。
一方BSACでは、「Dive Leader(ダイブリーダー)」が、チームをまとめたり安全を見ながら潜るための上位グレードで、さらにその上に最高位の「First Class Diver」があります。
「面白さしかない」余裕の境地へ
「上級なんて自分には早い」と思うかもしれませんが、スキルを高める最大のメリットは**「圧倒的な心の余裕」**が生まれることです。
筆者は上級(プロ)視点を持ってから、ファンダイビングがより一層楽しめる状態に変わりました。自分のスキルに不安がないため、チームへの責任を果たしつつも、自分とバディのことだけに集中できる贅沢さを実感しています。
視野が広がると、ガイドと一緒に生き物を探して仲間に教えたり、一つの生き物をじっくり観察したりする余裕も生まれます。ダイビングを心の底から遊び尽くしたいなら、ぜひ上級ランクを目指してみてください。

通常のランクアップとは別に、特定の目的に特化した「スペシャリティ」という選択肢もあります。
スペシャリティライセンスについて
「もっと深く潜りたい」「夜の海を見てみたい」「水中写真がうまくなりたい」。そんな特定の興味や目的に特化した講習が「スペシャリティライセンス(SP)」です。
SPは単なるコレクションではありません。自分のダイビングスタイルを確立し、安全に楽しむための具体的なテクニックを学ぶ場です。
スペシャリティライセンスの種類
どんな種類があるの?
スペシャリティライセンスには、環境や器材、スキルに応じて様々な種類があります。代表的なものをいくつかご紹介します。
- ディープダイビング: 水深18m以深(最大40m)での活動とリスク管理を学びます。
- エンリッチド・エア・ナイトロックス: 通常の空気より酸素濃度の高いガスを使用し、減圧不要限界時間を延長させる方法を学びます。
- ドライスーツ: 水に濡れないスーツの使い方を習得し、冬の海や寒冷地でも快適に潜れるようにします。
- レック(沈船)ダイビング: 沈んだ船の観察方法や、安全な内部進入(ペネトレーション)のスキルを学びます。
- 水中ナビゲーション: コンパスや自然の手がかりを使って、水中での位置把握能力を高めます。
筆者のおすすめは「ナビゲーション」
筆者が「ダイビングスタイルを変えた」と実感しているのが、意外かもしれませんが**「水中ナビゲーション」**です。
以前はガイドさんの後ろをついていくだけでしたが、このSPを取得してからは、バディと計画を立てて潜り、自分たちで元の場所に戻ってこられるようになりました。 「誰かについていくダイビング」から「自分たちで探検するダイビング」へ。セルフダイビングという新しい選択肢が生まれ、自由度とワクワク感が劇的に向上します。
海外で一目置かれるのは?
「海外で潜るなら、たくさんのSPカードが必要?」と不安になるかもしれません。 しかし、筆者の経験上、特定のカードを持っていることよりも、**「自信に基づいた振る舞い」**ができるかどうかが重要です。
基本的なスキルとマナーがしっかりしていれば、カードの枚数に関わらず、世界中のダイバーから一目置かれます。SPはカードを集めるためではなく、その「自信」と「余裕」を身につけるためのツールだと考えましょう。

スペシャリティライセンスの取得方法
取得までの具体的な流れ
SPコースの取得は、一般的に以下の3つのステップで進みます。
- 学科講習(知識開発): マニュアルやeラーニングを使って、その分野特有の知識(例:ナイトロックスの酸素分析や、ディープダイビングの減圧理論など)を学びます。
- 実技講習(海洋実習など): 実際に海やプールでスキルを練習します。多くのコースで最低2回〜4回程度のダイブが必要ですが、ナイトロックスなど一部のコースでは陸上のシミュレーションのみで完結する場合もあります。
- 認定(Cカード発行): インストラクターがスキルを確認し、基準を満たしていれば認定となります。
おすすめは「振り返りサイクル」での受講
SPを取得するタイミングに決まりはありませんが、筆者がおすすめするのは、「普段のダイビングの振り返り」をきっかけにする方法です。
「もっと長く潜りたいな」と思ったらナイトロックスを、「深場のハゼが見たいな」と思ったらディープを、「寒くて辛いな」と思ったらドライスーツを受講する。 このように、自分のダイビングで「何が足りないか」「何がしたいか」を感じたタイミングで受講するのがベストです。
取得後も、学んだことを次回のダイビングで実践し、自分のスキルとして定着させる。この**「振り返り→受講→実践」のサイクル**を回すことで、SPはただのカードではなく、あなたのダイビングライフを豊かにする一生モノの武器になります。

ここからは、趣味の領域を超えて、ダイビングを仕事にしたいと考える方への情報です。
プロフェッショナルライセンスの取得
「海が好き」という気持ちが深まると、自然と「この楽しさを誰かに伝えたい」「プロとして働いてみたい」という思いが湧いてくるものです。
ここでは、プロへの入り口である「ダイブマスター」と、指導者として活躍する「インストラクター」の資格取得について解説します。
ダイブマスターとは?
アマチュアとは違う「視点」と「責任」
ダイブマスターは、多くのダイバーが憧れるプロフェッショナルレベルの最初のステップです。主な役割は、ファンダイビングのガイドや、インストラクターの講習アシスタントです。
この資格を取得すると、海を見る視点が「自分とバディの楽しみ」から**「チーム全体の安全管理」**へと大きく変わります。 筆者もMSD(アマチュア最高峰)までは自分たちが楽しむことが主眼でしたが、ダイブマスターコースを通じて「残圧管理」や「トラブルの予兆察知」など、全体を安全に楽しませる責任感が生まれました。
必要なスキルとトレーニング
プロになるためには、レスキュー能力やダイビング理論、スタミナなどのスキルを「知っている」だけでなく「とっさに現場で使える」レベルまで高める必要があります。
「水泳選手並みの能力が必要?」と不安になるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。 筆者は水泳が得意ではなく、講習の「800mスノーケルスイミング」に一番苦労しました。しかし、「時間はかかってもいいから泳ぎ切る」と気持ちを切り替えて乗り越えました。苦手な項目があっても、やり切る意志があれば必ず道は開けます。
日本独自の「国家資格」の壁
注意点として、日本国内でプロとして報酬を得て活動する場合、ダイブマスターなどの民間資格(Cカード)だけでは法律上働くことができません。 厚生労働省が管轄する**「潜水士免許(国家資格)」**の取得が別途必須となります。これは学科試験のみで取得できますが、プロを目指すなら必ず押さえておくべき法的ルールです。

インストラクターライセンスの取得
キャリアを築くための「三層構造」
インストラクターライセンスは、ダイビング業界でキャリアを築くための最も重要なパスポートです。日本でインストラクターとして活動するには、大きく分けて以下の「三層構造」を理解しておく必要があります。
- 民間国際指導認定(Cカード): PADIなどの団体が認定する、指導能力の証明。
- 法的業務資格: 前述の「潜水士免許(国家資格)」。
- 公的認定指導資格: 文部科学省認定事業に基づく「スクーバ・ダイビング指導員」など、社会的信頼性を担保する資格。
通常は、まず民間のインストラクター資格(IDC等を受講し試験に合格)を取得し、並行して潜水士免許を取得するのが一般的です。
試験合格の鍵は「誰に習うか」
インストラクター試験(IE)は独特の緊張感があります。周りの受験生が全員上手に見えて萎縮してしまうかもしれません。 しかし、筆者を支えたのは「練習環境(師匠)が自信をくれた」という事実でした。普段お世話になっている先輩たちに鍛えられたおかげで、「彼らに教わった自分は負けていない」と自信を持って試験に臨めました。実際試験時には上手そうに見えていた受験生達の心配ができるくらいの余裕がありました。
合格の秘訣は、当日の頑張り以上に、質の高いトレーニングを提供してくれる「良い指導者」に出会うことだと実感しています。
プロになって得られる最大の喜び
厳しいトレーニングを乗り越え、インストラクターになってよかったと心から思える瞬間。それは**「教え子たちがダイビングを楽しんでいる姿を見た時」**です。
自分が認定した生徒さんが、SNSなどで色々な海を楽しんでいる様子を見ると、その人の人生の喜びに貢献できたような、深い幸せを感じます。 ダイビングインストラクターは、単に技術を教えるだけでなく、誰かの人生を豊かにする「きっかけ」を与えることができる素晴らしい仕事です。

なぜ、これほど多くの段階を踏んでまでライセンスを取得するのでしょうか。その本質的なメリットを振り返ります。
ダイビングライセンス取得のメリット
ダイビングを始めるとき、多くの方が体験ダイビングからスタートします。しかし、ライセンス(Cカード)を取得することで、その体験は「連れて行ってもらう遊び」から「自らコントロールする冒険」へと劇的に変化します。
ここでは、ライセンス取得によって得られる「安全」と「新しい世界」という2つの大きなメリットについて解説します。
安全なダイビングの実現
「人任せの恐怖」からの解放
体験ダイビングでは、インストラクターがすべてを管理してくれる安心感がある一方で、「もし溺れたら?」「息ができなくなったら?」という漠然とした恐怖が消えないことがあります。
筆者がライセンスを取得して最も変わったと感じたのは、この安心感の質です。 講習を通じて器材の仕組みや身体への影響、インストラクターの指示の意図をすべて頭の中で「答え合わせ」できるようになります。この「能動的な理解」があるからこそ、恐怖が消え、自分で「こうしてみよう」と試みる冒険心が生まれるのです。
リスクを管理する「プロの知識」
安全なダイビングとは、単に事故を避けるだけでなく、固有のリスクに対して専門的な備えを持つことです。
- 緊急時の対応力: DAN(Divers Alert Network)などが提供する酸素供給法講習を受ければ、バディの緊急時に酸素を供給するなどの初期対応が可能になり、生存率や予後を改善できる可能性があります。
- 器材トラブルの回避: 例えば、レギュレーターホースの内部劣化(結晶化)など、外観からはわからないリスクを知り、適切な点検を行うことで事故を未然に防ぐ知識が身につきます。
- セーフティネットの活用: DAN JAPANのような会員制サービスに加入することで、減圧症治療(再圧治療)への経済的補助や、24時間対応の緊急ホットラインを利用できるようになり、万全の体制で海を楽しめます。

新しいダイビングの世界を広げる
資格がないと見られない「絶景」がある
ライセンスを持つ最大のメリットは、活動範囲の制限が解除され、体験ダイビングでは絶対に行けないポイントにアクセスできるようになることです。
筆者が震えるほど感動したのは、セブ島の深場に沈むセスナ機の操縦席に座った体験でした。 また、水深40m付近での「ペットボトルが押しつぶされる」「赤いスーツが紫色に見える」といった物理現象を目の当たりにした時、海水浴では味わえない静寂と科学的な変化に感動しました。こうした「冒険映画のような世界」や「非日常の物理法則」は、資格を持つダイバーだけの特権です。
「アクセス権」としてのライセンス
近年、環境保護の観点から、ダイバーに対する規制が厳格化している地域もあります。 例えばタイの国立公園などでは、環境負荷の高い活動(水中撮影など)を行うには「アドバンスドライセンス以上」や「40回以上の経験」が条件となるケースがあります。 ライセンスは単なる認定証ではなく、こうした**「特別なエリアへの入場パスポート」**としても機能します。
「大人のサードプレイス」との出会い
ダイビングは、陸上の生活では出会えないような仲間と繋がるきっかけにもなります。 筆者は、普段の仕事では絶対に出会わないような異業種・多種多様な人たちと、「ダイビング」という共通言語だけで一瞬で距離を縮めることができました。ショップでお酒を飲んだり、海外のお店に遊びに来てくれたりと、利害関係のない純粋な「好き」で繋がるコミュニティは、大人にとってかけがえのない財産になります。

一生モノの趣味だからこそ気になるのが「有効期限」や「ブランク」の問題です。
ダイビングライセンスの更新・再認証制度と有効期限
「せっかく取ったライセンス、有効期限はあるの?」「数年潜っていないけれど、また使えるの?」 ダイビングを長く続けていると、こうした疑問にぶつかることがあります。
ここでは、Cカードの有効期限の仕組みと、ブランクが開いてしまった場合の対応、そしてプロ資格の維持について解説します。
Cカードは一生モノ?有効期限の真実
カードは無期限、スキルは「期限切れ」かも
意外かもしれませんが、レクリエーショナルダイバーのCカード(オープンウォーターなど)には、原則として有効期限はありません。自動車の運転免許証のような定期的な更新手続きも不要で、一度取得すれば生涯有効な「永久資格」として扱われます。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。「カードの有効性」と「スキルの有効性」は全くの別物だということです。 長期間潜らなければ、器材のセッティング手順を忘れ、浮力コントロールの感覚は確実に鈍ります。Cカードが証明するのは「過去にトレーニングを受けた事実」だけであり、「現在も安全に潜れること」までは保証してくれません。
プロは見ている「カード」よりも「ブランク」
筆者がガイドをする際も、Cカードのランク以上に重視するのが「最終ダイブ日」です。 20年ぶりのブランクがある方が「カードはあるから大丈夫」と来店されることもありますが、不安があればボート上や水面でスキルチェックを行い、無理そうなら「体験ダイビング」に切り替えるなどの安全措置をとります。
重要なのは「カードがあるから大丈夫」と過信することではなく、**「今の自分のスキル状態を正直に申告すること」**です。プロはこれを見抜いて事故を未然に防いでいます。

「久しぶり」のダイビングはどうする?
ブランクダイバー講習は「義務」ではないが…
久しぶりのダイビングで受講を勧められる「リフレッシュ講習(ブランクダイバー講習)」。 実はこれ、指導団体の規定として受講が義務付けられているわけではありません。
しかし、多くのダイビングショップでは、6ヶ月から1年以上ブランクのあるダイバーに対して、リフレッシュ講習の受講を参加条件としています。これはルールというより、自分自身とバディの安全を守るための**「最重要マナー」**と言えます。
プロでもブランク明けは緊張
「リフレッシュ講習なんて初心者が受けるようで恥ずかしい」と思う必要はありません。 筆者自身、プロ資格を持っていても、海外から帰国後に半年ほどのブランクを経て西湖で潜った際、環境の違いに緊張を感じます。 事前にシミュレーションをしていても、現場の光や透明度が変われば緊張するものです。「経験があるから大丈夫」という過信が一番の敵だと感じました。

プロ資格の維持とコスト
プロ資格は「サブスクリプション」契約
一度取れば終わりのレクリエーショナル資格とは対照的に、ダイブマスターやインストラクターなどの「プロ資格」は、維持管理が必須です。 指導団体に対し、毎年更新料を支払って「アクティブステータス(活動可能状態)」を更新し続ける必要があり、いわば**「サブスクリプション契約」**のような仕組みになっています。
SSIなどの規定では、10年以上活動を休止すると、復帰のためにコース全体を受け直さなければならないほど厳格です。
年会費と「誇り」の天秤
筆者にとって、年額約5万円ほどの維持費は決して安くありません。仕事で使わない時は「ノンアクティブ」にして費用を抑えるなど、ライフスタイルに合わせて切り替えることも可能です。 それでも資格を手放さないのは、厳しいインストラクター試験(IE)を乗り越えた努力への愛着と、「プロである」という誇りが原動力になっているからです。
また、これからインストラクターを目指す方は、講習費だけでなく、教材の買い直しや宿泊費・食費など、見えにくい「総額」のコストもしっかりシミュレーションしておくことをおすすめします。

まとめと今後の学び
ダイビングライセンス(Cカード)の世界は、知れば知るほど奥が深く、そして魅力に溢れています。 最後に、これからダイビングを始めるあなたが「失敗しないライセンス選び」をするための基準と、取得した後に長く楽しむための「学びの秘訣」をお伝えします。
ダイビングライセンスの選び方
指導団体は「哲学」と「汎用性」で見る
ライセンスを取得する際、まず迷うのが指導団体選びです。世界には様々な団体があり、それぞれに異なる特徴があります。
- PADI(パディ): 世界最大のシェアを持ち、国際的な汎用性(ポータビリティ)が非常に高いのが特徴です。どこへ行っても困らない安心感があります。
- BSAC(ビーエスエーシー): 英国王室とも縁が深い歴史ある団体で、「安全はすべてにわたって優先する」という理念のもと、科学的・探求的なアプローチを重視します。
- SSI(エスエスアイ): 経験本数(ログ)を重視し、実力主義的なカリキュラムが特徴です。
基本的には、自分が求めるスタイル(利便性か、探求心か)に合わせて選べば問題ありません。
最終的な決め手は「スタッフの人柄」
スペックや団体も大切ですが、筆者が友人にアドバイスするとしたら、ズバリ**「スタッフの人柄」**で選ぶことをおすすめします。
ダイビングは、講習中の休憩時間や悩み相談の場面で、どれだけ親身になってくれるスタッフがいるかが、上達や楽しさに直結します。筆者自身、通ったショップを「日本一」だと思えるのは、実績もさることながら「人がめちゃくちゃ良かった」からです。 「良いライセンス」を探すのではなく、「良い師匠」を探すつもりで、実際にショップに足を運び、スタッフと話して波長が合うか確認してみてください。

継続的な学習の重要性
ライセンスは「スタートライン」に過ぎない
Cカードを取得したからといって、すぐに完璧なダイバーになれるわけではありません。Cカードはあくまで「取得時点」の能力証明であり、継続的に潜らなければペーパーライセンスになってしまうリスクがあります。
ランクアップ(AOWやレスキューなど)やプロフェッショナルコースへの挑戦は、自身の安全性を高め、活動範囲を広げるための有効な手段です。学び続けることで、ダイビングの安全性と楽しさは飛躍的に向上します。
「水泳が苦手」こそダイビングに向いている?
「泳ぎが上手くないと続けられないのでは?」と不安に思う方もいるかもしれません。しかし、実は**「水泳が嫌い・苦手」な人ほどダイビングにハマる可能性**があります。
筆者自身も水泳は嫌いでしたが、ダイビングは「水中で呼吸ができ、頑張って泳がなくても良い(器材に頼れる)」という点に最大の魅力を感じました。水泳の苦しい部分が解消された「純粋な水中世界」を楽しめるかどうかが、継続の鍵です。技術へのコンプレックスを持つ必要はありません。
「目的」が学びの燃料になる
長く楽しく続けるための最大の秘訣は、具体的な「目的」を持つことです。
- 「プロになって誰かを教えたい」
- 「あの沈船を見に行きたい」
- 「将来、自分の子供と一緒に潜りたい」
筆者にとって、子供たちが大きくなった時に一緒に潜ることが、現在の最大のモチベーションになっています。 明確なゴールがあれば、スキルの習得もランクアップも、すべてがワクワクする「過程」に変わります。ぜひあなたも、海の中に自分だけの夢を見つけてみてください。

Last modified: 25 Dec 2025